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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

この御成道を真ッ直ぐに、小川町から牛ヶ淵の方角へ息もつかずに急いでくりゃれ」

「でも余りお駕が揺れましては」

「大事ない――」

と、今度は、御方自身が後の言葉をついで、

「どのように揺れようとも会釈は要らぬ。そして、先に七、八人の侍が行く影を見やったら、猶予なく追い着いて、その駕の棒を、先方の群へぶつけるのじゃ」

「えッ……」

駕の者は、思わず足を竦ませた。

「ホホホホホホ。何を怯れていやるのじゃ、駕の中には妾がおります。怖いと思うたら、先の者へぶつけた途端にそちたちは逃げるがよいぞ」

「へい、では一息にやッつけましょう」

「おお飛ぶように急いでたもれ。褒美は寮へ戻った上、存分に遣わしましょうぞ」

言葉が切れると一緒に、駕は濤にのせられた如くギッシギッシと揺れはじめた。引扉の簾に月影が透いた時、その中にある御方は、美しい眼を細く閉じて、いかにも心地よげに見えた。

花旋風両面の夜叉

一

声と足と息杖の相拍子をとって、にわかに行く手を急ぎだした三挺の女乗物――

見る間に、神田川の堤を横切って、小川町から護持院ヶ原へ入っていった早さ。あれでは、肩に棒を当てている者、乗っている者共に、定めし楽でなかろうと思えたが、時折、先の駕の中から、これでも不足のような御方の声が、激越な調子で外へ洩れて飛ぶ。