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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

「ではどう遊ばしても、覚明様にはここ四、五日うちに京の方へお戻りでござりますかいの」

「今も申した通りじゃ。中仙道を勧進に廻った甲賀房と河内房の二人が、間もなくここへ訪ねて落ち合う約束、さすれば、嫌でも一先ずお暇申さねば相成らぬ」

「まあ何という膠もないお言葉。殿方の薄情けを真にうける女子は浅慮かも知れませぬが、妾はどうあっても、そんな近い日にお帰し申すのは嫌じゃ、覚明様、その心意でおいでなされませの……」

と媚嬌を含んだ声はまぎれもない御方ではないか。新九郎はこの如菩薩の本相を見極めんとして近づきながら、また昏沌たる謎の渦に巻き込まれてしまった。と、後ろ向きになっていた総髪の男は、微かな人の気配を耳鋭く知って、

「あッ、誰かいる――」

と窓の方を振り顧った。その顔! おおその眼眸! 線の太い顔骨の男、新九郎は一目見て、躍り立つばかり仰天した。それこそ、彼が修行に出た第一歩に、強かな目に会わせられた修験の山伏だ。亀山の城下に、

「大円鏡智流刀杖指南、聖護院印可覚明」

という大看板をかけた、武芸者鬼門の荒道場と云われた修験道場の主大円房覚明。

新九郎は飛ぶように自分の部屋へ帰って来た。