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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
重蔵も腕をくんで、泣くまで泣かせておいてやろうと思った。それがせめてもの情けである。いい加減な慰めがこの年月の彼女の艱難にだけでも、露ほどの、宥りになりはしない――と思うのだった。
それにしても、今のが新九郎であるとすれば、僅か四、五年の間に何という恐ろしい性格の変りようであろう。あの腕の冴えを持ちながら、いまだに鐘巻自斎を打ち込んだという噂も聞かず、殊に、賤しい言葉づかいや、身ごなしの荒々しさ、そして、女の、酒のと、忌わしい謎めいたことさえ言っていた。
いつか、山は眠りに入るように森としてきた。寛永寺の森に、夕鴉の寒い羽ばたきが聞える。あたりの桜も、淡墨色に暮れて来た。千浪は、泣き死んだように、花びらの中に顔を埋めている……もう動きもせずに泣いているか――と重蔵は腸を掻きられるような思いがした。
「そこにいるのは、さっきの虚無僧さんかえ」
ぽっかり提灯の明りが、鼻のさきへ現れた。
「はい、虚無僧の者でござります」
「私は、この先の、大師下の茶屋の者だが、先ほど、お前さん方に助太刀した御曹子の親分が、これを後で渡してくれと言って、置いて行きなすった」