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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
二
二
赤坂土橋のお濠から、虎の門まで、溜池通りは、その頃、夏月遊賞の名所で、多くの蓮を植え、近江鮒がピンピン波紋を描いていた。
片側は榎並木、ところどころに一膳飯屋、牛の草鞋をぶら下げた家などがあり、人通りもごく稀なので、今しも、蹌々踉々と、千鳥足を運んでゆく一人の浪人にも、誰あって、鞘当をする心配がない。
ところが――心配がないどころか、白昼とはいえ人通りの稀なのを幸いに、榎の木から榎の木の蔭へ姿を隠しながら、酔歩の浪人を尾け狙って行く侍が七、八名。知ってか知らずか、人なき大道を、一歩は高く一歩は低く小声誦さみのそそり節でゆく者は春日新九郎であった。
また、彼を尾けている侍どもは、氷川下の深見一まきで、上野以来の恨みと、笊組の怨敵、氷川の縄張り近く、白昼大手をふって通る彼の姿を、何とて見のがす筈がない。
早くも、先へ廻った一人が、ばらばらと駈けて来て喧嘩の押売り、どんと突き当ると、新九郎が風を通してヒョイとかわす。
「あっ」
と、身を泳がせながら、侍の腕が新九郎の鐺をぐいと掴んだ。酔っているのですぐ足が浮く、新九郎は蹌々と後ろへ引かれた。
「しめたッ」