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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

「その駕は裏門から中庭へかつぎ込まれ、充分様子は分りませぬが、何しろ泥酔しているので、一先ず一室へ寝かしたらしい気配でござる」

「それだけ見極めがついておれば、もうこっちのもの同様。寮の女郎にも梅茶亭以来の怨みがあるところ、それこそ誂えどおりな潮時と申すものじゃ」

重左はこう言って、すぐ、屋敷に居合す者を残らず呼び集めた。いずれも、武家あがりの浪人伝法、小普請のしくじり、郷士出のあぶれ者、すべて無職の浪人が重左を主体にして山手組と名乗り、町奴、旗本組の一派と三角対峙になっていた。

燭と共に、それら異体な人物が、二十人余りずらりと居ならんだ。伝法あぶれ者揃いでも、こういう席となると一種厳粛な気分が漂い、森として無駄口一つ叩く者がない。

重左は々として鋭い眼を座中にくばり、錆のある声で静かにこう言いだした。

「今夜から明け方までの間に、打ち壊す屋敷が一軒、叩ッ斬る人間が二人ある。押田に任せておくから、万事ぬかりのねえようにやってくれ」

承知しましたという意志の表示に、一座がシーッと無言のまま頭を下げる。この辺は、同じ侠客でも町奴の親分とは大分貫禄が違う。