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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
玄蕃は、長の浪々でようやく衣食には窮迫して来たし、この先どうしたものかと思案していたところなので、機こそよしと、早速江戸家老の溝口伊予へ嘆願書を出して、再度帰参の取なし方を頼みこんだのであった。そして今日はその吉左右を聞きに来たのであった。
「はて、巧く行ってくれればいいが……」
と待ちあぐねていると、やがて京極家の臣溝口伊予が入って来た。元なら同藩の親友だが、今では江戸家老と只の素浪人、大月玄蕃もさすがに退目を感じながら一別以来の挨拶を済ました。
「この度はまた、厚顔しいお取なしを願い出、赤面至極に存じまするが、何分よろしくお力添えの程お願い申し上げます」
「いや何、決してご斟酌なさる程ではござらぬ。そりゃ殿様にも、四、五年前桔梗河原で福知山方とご当家との意地試合に、肝腎な其許が惨敗いたしたまま、国表を逐電されてしまった当座は、並ならぬご立腹であったには相違ないが、鐘巻自斎先生のご助力があったため、以来すッかり福知山の松平家で腰を折ってしまったので、自然、貴殿へのお憎しみも薄らいでいるところじゃ」
「いやもう、あのお話を持ち出されましては、玄蕃、冷汗背を流れまして、帰参のお願いどころか、穴にも入りたい心地が致しまする」