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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

三

「うるさい奴じゃ、何者か名を申さぬうちは開門ならん」

「足軽、秋山大助でござる……」

「秋山大助、また飲んだくれて帰りおったか」

口叱言を呟きながら、潜り門をギイーと開けた。

三

横にかぶった竹の子笠、肩に掛けたばかりの合羽姿を、よくも見ないで、門番は例の呑んだくれな足軽かと苦笑して通してしまった。

春日新九郎は、してやったりと心の裡で欣びながら、ツウと門内へ入ってしまうと、さすがに京極家の中屋敷、一町を縮めたような広さである。

右手に続いた墨塗羽目の建物は、表役人の詰部屋と見えて、金網窓には灯もさしていない。その腰壁の下を悠々と通って、ややしばらく行くと中門、そこでまた手間どる狂言は面倒と、隙を見て傍の楓の木から、ひらりと築地塀をおどり越え、奥庭深く入り込んだ。向うを見ると、雪の間、青嵐の間、秋錦の間、小さな燭が晃々とかがやいて、今しも、酒宴の終ったところか、鉤の手の廻廊を退がって来る侍の影が点々とお錠口へ流れてくる。

植込の中を匍って、あっちこっちの様子を見てきた新九郎は、橋廊下の下を潜って退り所の前近くまで来ると、そこは御殿から酔いつぶれて帰る侍達が大分な混雑。