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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
二
殊に血気の漲り立っている若侍などは、早くも戦のように騒ぎ立って、松平の下屋敷へ殺到すべく息巻きだした。
多年、積もり積もって来た両家確執の火が、ここに噴煙を揚げてしまったので、老臣の分別や重役の支えも何らの効なく、得物を取って宮津武士の百人余りは今しも愛宕へ差して海嘯の如く襲せようとしていた。
けれど、そんな大騒動をお膝もとで起すことは、江戸の周囲が見遁しているところではない。急はすぐ八方に知れて、このことを松平方へ早打ちする役人もあり、また、辰の口へ報ずる者もあって、丹後守とは縁戚の老中秋元但馬守は、真っ先に駈けつけて来て一同を鎮撫した。そして但馬守が再度松平家へ出向き、非公式にこの解決の結びをとることになった。
一方、愛宕の下屋敷の奥では、松平忠房が無理に新九郎を招いて逢っているところであった。忠房は深い事情を知らず、ただ彼が単身京極家へ斬り込んで、玄蕃の首を引っさげてきたことに無性な快を感じ、積年の溜飲を一時に下げている態である。
けれど同席の重蔵は、玄蕃の首を見ても一向に喜ばず、またこの上は早く郷里へ帰って静養するようにと希う、新九郎の情愛をも受け容れない風に見えた。