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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

そして末行には自分の首をもって新九郎の身代りとなし、時節の来るまでご隠忍あるようにと今日の結果までを案じてあった。

千浪と新九郎の歎きは言うまでもなく、忠房も家中の侍も、みな重蔵の誠忠と弟に対する恩愛の深さに貰い泣きした。

間もなく老中秋元喬朝の使者、京極家の溝口伊予その他の者が、万一を慮かって、堂々たる人数でこの下屋敷へ出向いて来た。

ところが、今日も案外容易に、下手人の首を渡したので、京極方ではいよいよ松平家が威光に怖れたものと得意になった。無論、首は検分の形式をとって受け取ったのだけれど、誰も深く新九郎の相貌を知る者はなく、およそのうろ覚えで受け取って行ったのは、実は兄の重蔵の首だったことは言うまでもない。

その一時の混雑のうちに、御方はいつか裏崖から植木屋弥平の隠れ家へ戻っていた。そして彼女はその日の午後に、ちょうど駕をもって迎えに来た姉の通子の方と同道して、鋲乗物に姿を隠し、打ち沈んだまま江戸城の大奥深くへ入ったのである。

この騒動の噂も下火になったころ、愛宕の下屋敷からこッそり出て行った一人の侍があった。

銀杏形の編笠を白の真田で腮にむすび、黒の紋服に身軽な行膝袴、草鞋鉄扇の拵えまで、すべて真新しい武芸者姿。