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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

五

「お訊ねのまま、狂人がましき修業のわけをお話し仕りましたが、二度まで対手に不覚をとっている始末、何とも面目がござりませぬ。必ず里の者へも、この儀はご吹聴下さらぬように願います」

導かれて、ここへ来た新九郎とこんがらは、左典の前に額ずいて、問わるるままに、つい大願苦行の目的を洩らしてしまった。

よそながら、常に新九郎の様子へ眼をつけていた老禰宜の左典、今日も、通りがかりに自斎と彼との試合を見ていたので、聞くごとに頷いて、さて、静かにこう言った。

「わしも若い頃は、少し木剣いじりを致したことがあるので、剣道の奥儀というものに達し難いことだけは知っている。殊に、播州船坂山の鐘巻自斎と言えば、富田流三家と言われた名人の随一、まず尋常一様なことで、彼に打ち勝つことのできぬのは道理でござる」

「では、如何なる苦行を積み、琢磨の功を経ましても、所詮この大望は遂げられまいと仰っしゃりますか」

「さればさ……」

左典は何か思案顔に、童顔の眦を神々しくふさいで、夕星のきらめきだした空を仰ぐ。

拝殿の破れ神簾のかげに、今二つの御灯がついた。榊葉のかげに光る鏡を掠めて、下げ髪水干の巫女が廊下の上へ静かに姿を立たせた。