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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

「それまでのお心とは知らず、一念の為とは言え、今日までの無礼不作法……」

「しばらく。その辞儀を言われに参ったのじゃござらぬ。――実は拙者にとって不思議に絶えぬ一ツの謎、それを貴殿に聞きたい為、暮るるを待ってお慕い申して参ったのじゃ」

「なに、ご不審のこととは?」

「今日の立合いに、貴殿が拙者を打ち込んだあの最後の一太刀――、そも、如何なるご工夫のものか、どう考えても不可思議な太刀」

「お訊ね申されては恥かしい。何をお隠し申そう。あの刀法こそは、先頃大妻籠でお別れ申した後、五社明神の神官左典と申す老人より教えられた清明心極の太刀と承わりましたもの……」

「な、なに、清明心極の大刀とな――ウーム……」

と、自斎は、新九郎の顔をみつめたまま永く唸いてしまった。

六

彼はまた改めて、新九郎へきっと膝を寄せて来た。そして、ほとんど唾をのむように、

「して、そのご伝授をうけた神官の姓名、またお年頃は?」

と問いつめた。

「聞けど笑って、そのことに、お答えのあった例しがござらぬ」

「フーム……では何ぞ風貌のうちに、目立つような特徴でもなかったでござろうか」

「そう問われて見ますと、真っ白い右の眉毛の上に、星のような一点の黒子――と、も一つ、お若い時の太刀傷か、耳の後ろに微かな痣があったと心得まする」