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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

「畜生ッ太え外道だ。そんな野郎にご領内の地べたを一寸でも踏ませてなるもんけえ」

「そうだ叩ッ殺してしまえッ。そいつを通しちゃご城下口に頑張っている由良の身内の名折れだ」

と伝わると、唯さえ鬱憤の満ちていた折とて、縄張り喧嘩以上の殺気が漲り渡った。

「野郎ども、仕度はいいか」

と由良の伝吉は真田の襷に銀角鍔の脇差を落して、荒格子の外に出ると、いつか馬子の権十が他へも触れ歩いたと見えて、あっちこっちから血気の若者が、思い思いの得物をとってワイワイと集まって来た。

「権十ッ、案内しろ!」

と伝吉が真ッ先に駈け出すと、

「それッ、親分に続け」

と乾分を加えたその人数が、疾風に押される潮のように、砂煙を残して行った。

茶屋の軒から、二足三足立ちかけた鐘巻自斎が、ワッと近づく人声に、何事かと解せぬ顔で見ていたのは、殺気立って来る由良の伝吉の禍いを待っているのと同じことになった。

「やい武士ッ、うぬあ京極方に味方して、春日様の足を打ッ挫いた痩浪人だろう。この先へ行くことあならねえからそう思えッ」

と仁王立ちに大手を拡げた伝吉は、後えに五、六十人の人数を曳いて、自斎の前を塞いでしまった。