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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

「どう致しやして、せめて千浪様のお死骸でもと、随分手分けを致しましたが、その甲斐もなく定めしお心残りでごぜえましょう」

「いやいや、不義の娘に未練はない。ただ気の毒なは重蔵殿じゃ、思うても腸が煮え返る……」

「それについて旦那様、たった一つのお欣びがごぜえます――委細はこれをご覧なせえまし」

と伝吉は携えて来た一通を差し出した。

「何じゃ? こりゃ不義腰抜けの新九郎から拙者への書面か――ええかような物は見る気もせぬ」

と作左衛門は手に取ろうともしなかった。

「まあとにかく、読んでだけはお上げなすって下せえまし」

と伝吉の言葉に、作左衛門は不承不承袂から眼鏡を出して読みはじめたが、手紙を置くと、はッたと膝を打って、

「うーむ、やりおったやりおった」と表情しきれぬほどの喜びを溢れさせて、

「これでこそ武士! 春日重蔵殿のご舎弟じゃ、天晴れ鐘巻自斎に勝る腕前にもならば、君公をはじめ、福知山藩全体の大きな誉れ、娘の千浪も名分が立つと申すもの……」

と作左衛門の欣びは尽きなかった。

そして慌ただしく奥へ入った作左衛門は、一封の小判と印籠、それに来国俊の大刀を添えて伝吉に差し出した。