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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
「あいつらはな」と町の少年たちは囁きあった、「みんな懲役人だぞ」
「人殺しもいるだってよ」
「んだ」と昂奮のあまり一人が息をはずませて囁いた、「こんどへえったあの赤痣のあるやつは、二人も殺したっていうだ、ほんとだぞ」
その男は三十五から四十五歳のあいだくらいにみえ、左のこめかみから頬にかけて、赤黒い色の大きな痣があった。
彼はどういう径路で雇われて来たかわからない。他の十五人もたぶんそうだろうが、ここでは過去の履歴や身分関係などは問題ではなかった。頭髪も眉毛も剃り、まる裸で、石灰粉まみれになれば、それだけでもう誰彼の差別はなくなってしまう。貝殻を投げ込み、薪を焚き、石灰が出来あがると、叺に詰めて河岸へ運び出す。単純で少しの変化もない仕事。口をきけば石灰粉がはいるため、唖者のように黙っているし、町の住民たちと交わることもない。――その男がどんな過去をもっているか、どこの生れで本名はなんというのか、そんなことを気にかける者は誰もなかった。一人の男がなかまに加わった、初めのうちは肌の色が違うのと、仕事に馴れないのとで、なかまの誰かがときどき彼を見た。睫毛に白い粉がたまり、瞼の赤くただれた、とろっとした眼で、訝しげに彼を眺め、それが新しく来た彼であることを認めると、無感動に眼をそらす、というようなことがあったが、彼