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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
毒をのむと苦しい
と女が云った、「おらけえるべえ」
男が慌てて女を呼び止めたが、女は返辞もしずに土堤へあがって来、そのままさっさと根戸川のほうへ歩み去った。――私が川やなぎの蔭から見ると、それはまだへこ帯をしめている、十五か十六くらいの少女であった。男はもそもそと、少女のあとを不決断に追っていったが、その男は二十五か六で、缶詰工場の工員のように感じられた。――彼はおそらくよその生れであって、この土地での恋のやりかたを知らなかったのであろう。それとも気が弱いだけだったのか。いずれにせよ、少女が怒って帰ったのは、男があいびきの目的に対して勇敢でなかったからに相違ない。私はそんなことを考えながら、帰り支度にかかった。
毒をのむと苦しい
私が晩めしのあと、独りで酒を啜っていると、窓の障子を外からあけて「喜世川」の栄子が覗いた。
「障子に先生の影が映ってたのよ」と栄子が云った、「あら景気がいいじゃない、あがらしてもらうよ」
私は隠しそこねた一升壜に向って顔をしかめてみせた。それは高品さんから貰ったものであった。まったく酒の飲めない高品さんが、どこかからなにかの祝いで、一升壜を三本おくられ、二本は炉端の客用にしたが、一本を私に呉れたのであった。