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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
青べか馴らし
そこには「水汲みばか」などと云われる亭主を持った、不運な女のかげとか、悲しみを胸に秘めているといったふうなものは微塵も感じられなかった。夜半の眼ざめにどんなことを思うかは知らないが――。
青べか馴らし
いかずちの船大工から、青べかの修理が終ったという知らせが来た。そのとき修理賃を四つ取られたので、芳爺さんに払った三つ半と豚肉代を加えると、それがかなり高価な買物であったことがわかり、私はもういちど、自分がうまうまひっかかったという事実を確認して、不愉快な気分を味わった。
修理賃は払ったが、なかなか舟を受取りにゆく気にはなれなかった。まえにも断わったように、その「青べか」は浦粕じゅうで知らない者のない、まぬけなぶっくれ舟であり、なかんずく子供たちには軽侮と嘲笑の的であった。そんなものに乗っているところを見られたら、私自身どうなるか想像がつかなかったのである。
「いいさ」と私は自分に云った、「そのうちに忘れてしまうだろう」
誰がどう忘れるのか。船大工が私を忘れるのか、私が舟を受取ることを忘れるのか、貧窮の中でなけなしの金を九つ近くも取られた青べかそのものを忘れるというのか。