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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
おわりに
「巡礼だ、巡礼だ」暗い土堤を家のほうへ歩きながら、私は昂奮をしずめるために、声にだして呟いた、「苦しみつつはたらけ」それはそのころ私の絶望や失意を救ってくれた唯一の本、ストリンドベリイの「青巻」に書かれている章句の一であった、「苦しみつつ、なおはたらけ、安住を求めるな、この世は巡礼である」
おわりに
私は浦粕から逃げだした。その土地の生活にも飽きたが、それ以上に、こんな田舎にいてはだめだ、ということを悟ったからであった。私は町の隅ずみを歩いた。沖の百万坪、白い煙霧に包まれている石灰工場、芳爺さんの住居に近い三本松、消防小屋、堀南から中堀橋を渡り、堀に沿った堤の左側に、養魚場の広い池を眺めながら、東の海水浴場へもいってみた。こうして、土地や風景には別れを告げたけれども、東京へ去ることは誰にも云わなかった。高品さん夫妻にさえ話さず、売り残って半ば不用の本の詰った四つの本箱や、机や、やぶれ蒲団や穴だらけの蚊屋。よごれたまま押入へ突込んである下衣や足袋類。その他がらくた一切をそのままにして、――というのは、物を片づけるということが私はなにより嫌いで、それも自分でやるのが嫌いなだけではなく、人が片づけ物をしているのさえ見ていられないたちだったからだが、――書きあげた幾篇かの原稿と、材料ノートと、スケッチ・ブック五冊