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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
けけち
そこで春さんは口をつぐみ、年嵩の運転手が大きな欠伸をした。
けけち
私は青べかを大三角に繋いで、釣りをしていた。秋の中ごろだったと思う、――大三角とは、根戸川の下流にある三角洲で、デルタというものがいかにして形成されるかということを、絵解きにして見せているような存在であった。概略だけ描いてみると、干潮時には洲そのものが三段に重なっているのが見える。一段はほぼ五十センチほどの厚さがあり、段と段のあいだは隙間になって、枯れた古い芦の幹が支柱のように竝立している。――つまり、芦の茂みに砂や土が溜まり、流れて来た小枝や枯葉が溜まり、そこへまた砂塵や土が混って、洲の一段が出来あがる。これが繰返されると、やがて芦はその段から生えるようになり、その芦の茂みを中心に、また同じことが始まるのである。どのくらいの年月かは不明であるが、上の段がそれ自身の重みで、下のそれへとさがって重なり、さらに沈下して洲の基礎となる。――私にはそういうふうに考えられたし、現にその洲の周辺が三段になっているのは、デルタ形成の途上であるのだと思えた。
大三角は芦で蔽われてい、やかましくよしきりが鳴き騒いでいた。