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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
狐火
「待てこら、待てっちゅうに待たねえか」
看視人の足が水しぶきをあげ、男はひょいと跼んで水の中へ手を伸ばした。これはたまらぬ、とでもいったような動作で、すばやくなにかを手繰ると、大きな包みを水の中から引揚げ、それを肩に担いで駆けだした。包みの中は貝であろう、包みの口をしめた紐の先を足首に結びつけて、さりげなく水の中をひきずっていたものとみえる。看視人は喚きながら追いかけ、男は包みを担いで逃げた。看視人も早いが逃げる男も早く、二人の蹴立てる水しぶきは、しだいに遠くなり、やがて根戸川の川口のほうへと、見えなくなっていった。
私は青べかの中へらくに坐り、あんこだまと魚煎餅を喰べ、ぬるい茶を飲んで、また「青巻」を披いた。
「ただのええびか」私は独りで笑った、「うまく逃げてくれよ」
狐火
梅雨のあけかかった或る夜、――高品さんの家の炉端に、常連の蒸気乗りや船頭たちが集まって、茶と菓子をつまみながら話していた。雨はあがったが気温が高く、障子をあけ放した縁側のほうから、ときどきひんやりした微風が吹きこんで来た。
私は末吉エンジナーと五目並べをしていた。末吉エンジは四十がらみで、蒸気乗りだから色は黒いが、細おもてのなかなかな美男であり、さぞ女にももてるだろうし、道楽もするだろうと思われるが、実際には酒もタバコも口にしないし、