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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

砂と柘榴

それは学校のある時間ではあるが、土曜日だった、などということも云う必要はないだろう。――私は海まで流されはしなかった。一つのところで房なあこの舟に捉まり、無事に蒸気河岸まで曳き戻されたのであった。

或る日、――いや、これ以上は退屈な繰返しになる。私が彼女に対する憐れみや、愛情や劬りをかなぐり捨て、悪童どもと同じように、それが正しく青べかにすぎないと認めたとき、初めて彼女は私に身を任せた。つまり私の棹と櫂の命ずるままになった、ということを記しておけばいいであろう。

砂と柘榴

堀の洋品雑貨店「みその」の息子が嫁を貰った。息子の名は五郎、年は二十四、町の人たちはごろさんと呼んでいた。嫁はゆい子といい、年は二十一歳。この町から四キロほど川上にある篠咲の者で、実家はかなりな地主だといわれていた。

五郎さんは温和しい性分であった。背丈は五尺一寸くらい、痩せていて顔は蒼白く、いつも手指の爪をかじる癖があった。家族は父と彼と、十二になる妹の三人で、姉が一人いたが、何年もまえによそへ嫁し、その婚家の人たちといっしょに、北海道へ移住してしまった。母親は長く腎臓を病んだのち、その年の夏に亡くなり、そこで急に五郎さんの結婚が繰りあげられたのであった。