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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

家鴨(あひる)

――だいき(人名)のじいさまは毎晩ばあさまに手を合わせてあやまるだってよ、とても続かねえからってよ、ふん。

主としてそんな類いの情報であった。

「ふん、野口のすずあまが」とおたまは軽蔑したように云った、「あんなのぺっとした顔をしてえてすけべえなことったら、夜になってな、十二時過ぎてっから裏の戸を叩くとよ、すぐに出て来て誰にだってさせるだ、誰にだってよ、相手に選り好みはねえだってよ」

「嘘じゃねえってば先生」とおたまは念を押すように云った、「だからみんなはすずあまのこと****(注・小題参照)って云ってるだよ」

家鴨(あひる)

私が増さんと初めて会ったのは、堀南にあるてんぷら屋「天鉄」の店であった。私は僅かな稿料がはいると、よく天鉄へいってめしを喰べた。てんぷら一人前で酒を一本ゆっくりと飲み、そのあと、その日の特にいいたねを二つか三つくらい揚げてもらってめしを喰べる。そのころ私はまだ酒に弱かったので、よほどのことがなければ二合飲むようなことはなかったし、一合を飲むのにも一時間くらいかかったろう。必ず本を持っていって、冬ならば小さな瀬戸火鉢を抱え、夏なら団扇を使いながら、本を読み読みてんぷらを喰べ、思いだしては酒を啜る、というぐあいであった。