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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
繁あね
繁あね
私は青べかを二つへ漕ぎ入れ、細い水路を二百メートルほどいった、川柳の茂みのところに繋いで、釣竿をおろした。三月はじめの曇った日で、風はなく、浅い水路の水は淀んだように澄んでおり、実際には流れているのだが、殆んど静止したままのように見えた。
私は竿をおろしてから、青べかの中にゆっくり坐り直し、タバコを出して火をつけた。
そこは百万坪のほぼ中央に当っていた。北のほうに遠く、町の家並みが平らに密集してい、貝の缶詰工場や石灰工場から吐き出される煙が、雲に掩われた空へと、ゆるやかに、まっすぐ立ち昇っていた、(私のノートには「煙は上へゆくほど薄くなる棒のように」というつまらない形容が使ってある)町の東北のはずれから東にかけて、荒地の中に一筋の道があり、ひねくれた枝ぶりの、小さな松並木が沖の弁天社まで続いている。この土地では松が育たないそうで、それは「堀の三本松が一本だけにされた報い」だともいわれているが、慥かに、芳爺さんの家に近い、堀端にある老松のほかに松らしい松は一本もみあたらなかった。――そのひねこびた松並木を挟んで、枯れた芦の茂みがところどころに見える、それらはみな沼か湿地で、川獺や鼬が棲んでいるといわれ、私も川獺は幾たびか見かけたし、それを捕獲して毛皮屋へ売って儲けようと計ったこともあるが、それはここ