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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
蜜柑の木
私はちょっと質問した。
「そんなこたあ屁でもねえさ」と老人は云った、「いかずちの船大工に頼めばすぐ繕ってくれるだ、いいとも、おらが持ってって頼んでやるだよ」
「それから」と老人はいそいで付け加えた、「こういう売り買いには、買い手のほうでなにか物を付けるのがしきたりになってるだ、豚肉の百匁でもいいし、夏なら西瓜の三つくれえかな、うう、おめえよく舶来のタバコを吸ってるようだが」
私は豚肉を届けると答えた。
こうして私は「青べか」の持ち主になった。どんなに小さく、そしてぶっくれ舟であるにもせよ、一ぱいの舟の所有者になったのだが、私はうれしくもなかったし、誇りがましい気持にもなれなかった。長をはじめとする少年たちの軽侮の眼や、嘲笑の声を考えるだけで、むしろ急に肩身のせまくなったような鬱陶しい、沈んだ気分にとらわれたのであった。
「いいさ、あんな舟」と私は帰る道で自分に云った、「乗らなければいいんだ」
私は明くる日、老人のところへ舟の代金と、豚肉を百匁だけ届け、なお青べかについて、二三のことを頼んだ。老人はこころよく受け合い、そのとおりにすると約束した。
蜜柑の木