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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
年は留さんより三つも上だし、八兵衛などをして「ねんがあけた」女ではあるが、留さんはてんで恐悦してしまい、煮焚きはもちろん、女の下の物まで洗濯してやっているそうであった。
「こうなったらだめなのよ」高品夫人は私の問いに答えて云った、「夫婦約束をした女だし、こんどこそ世帯を持っておちつくんだからって云われてみれば、貯金帳を渡さないわけにはいかないじゃないの、そうでしょ」
「それに相手がそんな女だからね」と高品さんも云った、「どうせゆき場がなくって来たんだろうから、こんどは、本当におちつくかもしれませんよ」
そして十日ほどのちに、私は浦粕亭でビールを飲みながら、留さんの女について、秋葉エンジから第一報を聞いた。
「たいへんな女だよ、先生」秋葉エンジは朴訥な顔にうすら笑いをうかべながら云った、「なげえことしょうばいをした躯だから、留さん一人じゃあ保たねえって、通船の者をだれかれなしに引張り込むだよ、代り番こだ、船が篠咲に着くたんびに、誰か一人がおりてゆく、そして船が徳行から戻って来ると、そいつが船へ乗って、代りの者がおりてゆくだ」
私がためらいながら訊くと、秋葉エンジは素朴な、そしていくらか虚無的な笑いをうかべた。