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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

「気づかねえだか、気づいてるだかわからねえだ、おらあ勘づいてると思うだがねえよ」と秋葉エンジは云った、「――現に三十六号船の者が代り番こにおりるだし、銀公(「おらあ抵抗しなかった」の章を参照)が聞いたところでは、それが気に障るならおめえ一人でまかなってみろ、って女がどなりけえしたっていうだよ」

私が嘆くと秋葉エンジも嘆いた。

「悪い野郎どもだ、まったく悪い野郎どもだ」と彼はコップの中でビールの泡の消えてゆくのを見まもりながら云った、「いくら向うでさそったからって、他人の女を只でなにして、留さんの前で笑い話にするって法はねえだ、始末におえねえ野郎どもだよ」

その話はすぐに、高品家の炉端でも出るようになった。しかし、これまで幾たびも記したように、そのことについて非難するような声は、――秋葉エンジを除いて、――ただの一度も聞かれなかった。尋常な家庭に起こるこの種の出来事でさえ、浦粕ではさして問題にしないのが一般的風習であり、留さんの場合は特に、その女が八兵衛あがりだったから、笑い話としてもさしたる価値はないようであった。――そうしてやがて、私は第二報を聞いた。