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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

私は彼女を「青べか」から「ロジナンテ」に変えようとしたのだ。悪童どもが好奇心をおこして訊きに来たら、私はその名の由来を語ってやるつもりだった。そうすればかれらの頭には、愚かしく愛すべき老馬の姿が印象づけられるに相違ない、――おっかしな、可哀そうな老いぼれ馬。こういう観念がかれらに起これば、もはやその「可哀そうな老いぼれ馬」を迫害するようなことはないだろう、およそ少年というものは自分を英雄化し、事をロマンティックに考えたがるものだからだ。

「まあ待ってみよう」と私は家へペンキを取りに戻りながら云った、「ものごとは辛抱がかんじんだ」

だが私の期待は外れた。

この土地の悪童どもは、私のいだいている「少年」という概念の外にあるらしい。青ペンキを塗ろうが塗るまいが、白いペンキで妙な名を書こうが書くまいが、かれらにとって「青べか」はしょせん「青べか」にすぎないのであった。

「即物的なやつらだ」と私は云った、「好きなようにしろ」

私はさらにこう云ったことを覚えている、「どうでもいいようにしろ、勝手にしやあがれ」

悪童どもは飽きもせず、毎日やって来て青べかの虐待に興じた。