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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

雨の日にさえ、学校のゆき帰りに石を投げ、泥を投げ、悪罵と嘲弄をあびせかけた。私はそのとき「画師弘高の悲劇」という、二部十幕の大作にかかってい、それはまったく金になるあてのないものだったが、その原稿に没頭することによって、青べかのことを忘れることにつとめた。

お願いしたいのは、私がこれを人間的葛藤の比喩に使っていると思っていただきたくないことである。これは事実そのままを語っているのであり、現実に「あった」ことなのである。聖書によれば、人間の原罪の片棒を担いだために蛇はいまでも憎まれ、塵の中を這いまわらなければならないのだという。私は青べかのうえにも、その原罪の不当な迫害という共通点を感じて、嘆息した。

子供たちはやがて飽きた。熱烈に恋しあったうえに結婚した男が(或いは女が)やがてその相手に飽きるようにではなく、老醜の彼、または彼女を憎みさげすむことに飽きるように、――その期間がどのくらいであったか、ということは問題ではない。とにかく子供たちは飽き、青べかには眼もくれなくなった。時がすべてを解決するという、怠けた金言も、ここではいちおう実現したわけである。