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うえすぎけんしん
上杉謙信
吉川 英治
「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页
ことが明らかにされた。
だが、この影なるものは、始末がわるい。一方を掃えば、またべつな一面に躍って出るのだ。世上でよく、
(信玄には七人の影武者がいて、誰が信玄とも分らない仕組になっている)
と沙汰するのも、彼のこういう謀略的性格の変幻出没をさしていうのかもしれない。
さて去年、越中に出馬して、辺境の乱を討伐した謙信は、居城春日山へ帰って、鎧を解くいとまもなく、またまた上州厩橋の管領上杉家から、
(至急、関東へ来援を乞う)
という出兵の要請に接した。
敵は小田原の北条氏康である。北条の勢威は、しきりに近境の里見、佐竹などの小国を脅かし、いまはその圧迫にたえない状態にあるが、管領の上杉憲政に訴えても、すでにそれを抑える実力もないし、放置しておけば、ついに乱は上州一円にも及んで、管領家の自立すら危うく思われ出したための悲鳴であった。
然諾、ただちに謙信は、春日山を雷発して、上州へ南下して来た。それが去年の八月。ここ厩橋城を本拠として、房総の小国を糾合し、彼の小田原攻略の大策は、いまその半途にかかりつつ、明けて永禄四年の新春を、この城中に迎えたわけであった。