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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页

青空文庫

遠征すでに四ヵ月、戦いの前途はまだ期し難い。こう長陣となれば、士気を倦まさぬことが肝要である。――で、今日のように時には大いに飲んで高吟放歌に気をはなつのも意義がある。そう眺めやりながら謙信は満足そうであった。客の近衛前嗣も楽しげに見えた。ひとり上杉憲政だけは、

(こんなことでいいのか?)

と、ひそかに患えているものらしく、いつまでも酔えない顔いろであった。

しかし、この歓宴も、紊れるまでにはならなかった。各自、限度を心得ているのだ。まず、最も放逸に踊ったり謡ったりしていた者から真っ先に、

「よいほどにしよう」

「これくらいにしておいて」

と杯を納め、そして配膳の係へ、食事をうながすと、各※(二の字点、1-2-22)、大茶碗をかかえこんで、真面目に飯をたべ始めていた。

――と、そこへ、四、五名の同僚とともに、寒そうに鼻を赤らめて、外から戻って来たものがある。末座から遠く主君や客のほうへ礼をすると、その一組は、大勢の中へ割って入り、すぐ箸と茶碗を持とうとした。

謙信は、遥かに見つけて、

「下野ではないか」

と、呼びかけた。

咎められたと思ったか、その中のひとり斎藤下野守は、あわてて容を正し、