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うえすぎけんしん
上杉謙信
吉川 英治
「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页
越後の故郷の秋を。
そこにある、各※(二の字点、1-2-22)の家庭を。
敵地に使いするからは、覚悟のまえだった。この期になって、もがくこともない――。
しかし。
やがて、谷間から、裏から表から、これへ犇々近づいて来る敵の気はいを知ると、さすがに、膝を立て、太刀をつかんで、
「来たっ――」
「思い残すところなくやれよ」
「いうまでもない」
らんと、みな眼をかがやかし、はやくも、悽愴な気を、眉に、唇に示し合って、針鼠のように、体じゅうを硬めていた。
「――なに、斬死する。ばかな、これだけでは、いかに戦っても、甲府を攻め奪ることはできぬ。よせよせ」
斎藤下野は、まぶしげに、左の悪いほうの眼を、指の腹でこすっていた。ここ十数日の苦労に、ゆうべも寝ていないので、眼やにをつけていたのだった。
一同の眼は、その面へ集まって、
「では。……では、潔く、切腹するお心ですか」
黒川大隅以下、つめ寄らんばかりに彼を囲んだ。
「ちがう。心得ちがい召さるな」
眼やにを除って、平然たるものである。
「切腹もせず斬死もせず……しからばどうするお覚悟か」
「捕まろう。こうしていれば、捕まるだろう、曳いて行くところへ曳かれて行こう」