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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
血だまりを睨んだものである。
「あッ、妾目が廻る! あッ、妾死んでしまいそうだ! あッ、だんだん気が遠くなる!」
キューッとこめかみを押さえつけた。
気だって遠くなるだろう。眼だってグラグラするだろう。恋が叶ってサア今夜! 楽しい夢を見る事が出来る。こう思ったおりもおり、君尾の居場所が発見され、一つの邪魔がはいったのでさえ、随分お町には苦痛だったのに、帰って来て見れば恋人がいない。残されているのは血だまりだ。殺されて死骸を捨てられたか、負傷してどこかへさらわれたか、どっちみち、恐ろしい運命が、恋人を見舞ったに相違ない。間を置いて来たならともかくも、一度に襲ってきたのである。もしもお町が気弱だったら、気絶ぐらいはしただろう。
お町はいつまでも動かない。ぼんやりと血だまりを見詰めている。さりとて考えているのではない。放心、放心、放心しているのだ。と、ポッと眼の前へ、一つの生首が浮かんできた。袴広太郎の首級である。と、ポッと消えてしまった。急に古沼が見えて来た。一つの死骸が浮かんでいる。袴広太郎の死骸である。だが、そいつも消えてしまった。
頭の芯がジーンと痛む。