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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
とそこへ来たのは、お延であった。洞門の権右は意外な顔をして、
「姐御、こいつあ今日……」
と云いかける口を押えつけて、
「お黙りよ! お前たちは引ッこんでおいで」
とお延の寄りもつかれぬような血相に、玄蕃も苦虫を噛んで身を退いてしまった。
「お延、わりゃあ何で男のすることを止め立てする」
と雨龍太郎はきっとして彼女を咎めた。
「いけませんか。私の恩人だから止めたのが悪うござんすかえ?」
「何? われの恩人だと。そりゃどうした訳だ」
「いつかお頭領にも話したことがあるじゃございませんか――去年舞鶴へ行った時に、私が路銀を落して帰れなくなったところを、名も所も云わず貸して下すったその時のお侍様というのは、そこにいる方なんでございます」
「ふーむ……」
と雨龍は新九郎を見直した。お延はその猜疑の目を紛らわすように彼の傍へ摺り寄って、白い顔を遮らせた。
「ねえお頭領え、私にとってはそうした恩のある方なんです。事の間違いで手下の一人や二人傷つけたかあ知りませんが、何も居候の侍なんかに嬲り殺しにさせなくったって、いいじゃあありませんか」
と玄蕃の方へは、余計なことをと云わぬばかりの流眄を見せた。