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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

「エーイッ」

と十太夫は威嚇の気合いを放った。

「くそッ、この鮠めッ」

十太夫は愕いた。人を鮠だと思っている。しかし、儀助にとっては、人間を鮠だと見るのが槍の極意だ。いまや烈火の如く憤った十太夫が、木剣も挫けろと打ち込んできた途端、

「畜生ッ鮠め」

と突き出した儀助の穂先が、狙い違わず十太夫の額へ、ポンと当ったので、あッと叫んで十太夫は仰向けにどんと倒れた。

「どうでがす、先生」

「ま、参った」

と彼は苦々しい顔で袴の土を払っている。それを見た新九郎は、まったく感に耐えてしまった。かかる技に立ちむかっておくのも、いい修行となるであろうと思った。

「あいや儀助殿、しばらく待ってくれい」

「やあお侍様、お恥かしいことでがした」

「いやいや、驚き入った腕前じゃ。一つ拙者に指南してくれぬか、立合って見てくれい」

「では一つやって見ますべえ」

「断っておくが、拙者はまだ竹刀も木剣も持ったことがないゆえ作法は知らぬぞ」

「へへへそんな嘘を云っても油断はしねえ」

「いや、まったくじゃ」

と新九郎は木剣を持って進んだ。

事実、新九郎自身が告白した通り、彼は生れて初めて木剣に手を触れたのである。