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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
「アッー」
と叫んで斜めによろめいたところを天の如き河内房の強力で、新九郎の小手を強かに打ち込んだ。
「参った」
と新九郎の無念の声。河内房は耳に触れぬ振りをして、続けざまにピシャリッピシャリッと五、六本続けて打ち込んだので、新九郎はと仰向けにたおれてしまった。
「こりゃ理不尽な……」
と刎ね起きた新九郎の額には、無慚な血潮が滲んでいた。
「何が理不尽、それゆえ前もって当流の掟は申し聞かせてある。未熟な腕前で他流試合を望みなど致すから、かような目にも会うのだ! 馬鹿めッ」
と河内房が続けて栴檀刀をもって擲りかけて来たので、新九郎はむッと引っ掴んで、
「己れッ無礼な!」
と蒼ざめた顔色に髪を乱して睨みつけた。
「やあ河内房、痩せ侍の吠え面見るも笑止、引ッ掴んで表へ抓み出してしまえ」
と大円房は憎態な嘲笑を泛かべながら下知した。と、ばらばらと立ち上がった柿山伏の門輩どもは、一人の新九郎の手を取り足をすくって玄関口より引き摺りだして、
「ざまを見ろッ、いい笑われ者だ」
と思う存分の罵詈悪口をかぶせて、どんと門外へ突き出してしまった。
九
春日新九郎はしばらく無念のあまり、倒れたまま、はッたと大円房の門を睨みすえた。