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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

するすると、蛇身のようにうねり寄って、二度目の襖を、ジリ、ジリ……と、一、二寸ずつ開けた時、お延は思わず、喉をゴックリさせて、息を吸い止めながら、中を窺った。

戸閉ざさぬ縁から、吹き込む夜更けの冷たい風に、青い波を縒っている蚊帳の中なる夢心地は、前後不覚の態であった。

白い悪魔の手は、苦もなく蚊帳の裾から忍びこんで、枕元の一包みを掴んだ――ニタリと、凄絶な笑を片頬に見せたお延は、同時に、音もせず身を退いたが、どうしたのか、次の部屋までくると、着物の裳がピンと張ってしまった。

「? ……」

恟ッとして振り顧ったが、蚊帳の中の侍は依然たる様子。だのに、引いても、もがいても、裳は何物かに食い止められて、お延の体は、それより一寸も退ッ引き出来なかった。

「ちょッ……」

と軽い舌うちをして、手探りで撫で廻すと、閾と裳を縫い止めに、突き刺さッていたのは一本の小柄。

「あッ――」

とお延は驚いて、力任せに引きちぎろうとした途端――

「女ッ、待て!」

と耳をつんざいた一喝。

「こ、小六さん――」

とお延の喉を衝き破った声と一緒に、縁側から躍り込んだ投げ槍の小六、ふりかぶった大刀をきらりと一閃、蚊帳の吊手の落ちるのと共に、ズンと中を目がけて斬り下ろした。