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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

男はそれに往生した様子で、

「や、由良の親分じゃございませんか。妙な所でお目にかかりましたなア」

と初めて、気がついた様子をわざとらしく、誇張して口を切った。

伝吉が見たようなと、思ったのも道理で、その男は、同業だが仲の悪い、宮津方の用達元締をしている、舞鶴の新造の身内で、独鈷の仁三という者だった。

「おお、どうも似た後ろ姿だと思っていた。そして、そっちにいるのは?」

「え、何、こっちの衆は、稼業違いの者なんですが、旅は道連れ、舞鶴まで帰る人だっていうから一緒になったまでのことです」

と仁三は、狼狽え気味で、言葉を濁しているうちに、伝吉がジロリと一方の顔を見ると、山陰地方の食い詰め者で、所払いになった、痣の久六という名うてな悪女衒、いよいよ変な同行、こいつは何か魂胆のある旅だと睨んで、それから道づれになりながらも、いろいろ鎌をかけたが、仁三も容易に尻尾は見せない。

浄法寺並木から、亀岡の城下、そろそろ陽が暮れかけてきたにかかわらず、どっちも宿を取ろうとは云わない。ただ、仁三の方では、しきりに、伝吉と別れよう、撒こうとする、気振りが見える。

「親分、ご都合もございましょうから、どうか、先へお急ぎになるとも、また亀岡へ戻って、宿をお取りになろうとご自由にどうか……」