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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
互に道を助け合いながら、来る者は、虚無僧の竹枝と月巣――すなわち千浪と春日重蔵のふたりであった。朽葉を踏むわらじの緒、脚絆までが、清水に濡れて、夏とは云え、氷室を辿るような山気が冷々と迫る。
と、程なく、行く手に見えはじめた一道の明り。くわッと照ったお花畑が二人の眼を射たかと思うと、一叢の夏草から、むッくり起ってきた深編笠の侍。二人の前にぴッたり足をとめたが、会釈もせず、辞もかけず、無言のまま、泰然と己れの姿を見せつけた。
「ご免なさいませ」
何気なく、天蓋のふちを持ちながら、袖ぎわを会釈して、摺りぬけようとすると、それに連れて一足退がった侍は、重蔵の胸板を、片手でどんと押し返した。
「あ――」
身をかわしたが、片足ままにならぬ重蔵、思わず、よろりとなるのを、支え止めた千浪は、さッと美しい蘭瞼をいからせて、
「何をなさるのじゃ!」
努めて、男らしく云い放ったが、憤りも凜とすんで、女性の肉声は争われない。深編笠の侍は憎らしいほど落着き払って、
「おう、珍らしくも懐かしい声を聞いた」
と云った。
「えッ」
「千浪ッ。またそれなるは春日重蔵であろう。こう申す者は、その方たちが現在尋ねている大月玄蕃だ。