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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

良人の教忠卿が病歿して御方は生家へ帰されたのだ。

縹緻といえば、妹の通子にも劣らぬ光子の御方は、こうした不運から若い黒髪をぷッつり切って、切下げ姿の淋しい花となったが、それ以来、御方の性格がガラリと一変して、京都の盛り場へ出歩いたり、女だてらに木太刀を取って遊侠の徒に交じったり、手のつけられない乱行を擅にした。これが町人の娘ならとにかく、かりそめにも名門の姫君なので、父の為俊卿も心を痛めること一通りでない。その結果、同門の一族協議の末に、仁和寺のさる高僧に頼んで、光子の御方を尼として、嵯峨野の奥へ行い澄ませようと謀った。

御方はそれを洩れ聞くと共に、飄然と京から姿を隠してしまった。そして、間もなく江戸城の大奥へ妹の通子を訪ねて来た。その時は、僅か老女の水瀬と一人の侍女しか連れていなかった。

「では、どう遊ばしても、京都へお戻りなさらぬお心でござりますか?」

妹のお通の方は、突然場所もあろうに大奥へ訪ねて来た姉を迎えて心配そうに訊くのだった。

「嫌じゃ、たとえどのような事があろうと、二度と京へ帰る心はない。それに、妾の気持が江戸の町にも合っている。ここで気儘気楽に世を送りたいのじゃ、何とかよいように計らって賜れ」