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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

新九郎はこの寮へ来てから、髪も伸びるままにしていたのを、今朝、御方が鏡台を出して、前を五分月代に、後ろの切下げを折り大髻に結い直してくれたのである。二人の間は、昨日とまるで打って変って打ち解けていた。

「おお、この方がどんなに似合うか知れませんよ、それに一人前の男らしくもある。昨夜から本当の男一匹になった新九郎様、お気に入りましたかいの?」

言葉もズッと砕けて、新九郎の顔へ自分の顔を摺り寄せて鏡に映した。そして、

「さ、長い間の人質も、お返し申しますぞえ」

とすっかり手入れの出来た来国俊を渡してくれた。それを見た刹那、新九郎はふと千浪や兄の面影を思い浮べたが、御方に焦かれ、一刀を小脇にして庭へ飛び降りた。

「あはッはははは」

覚明は彼を睥睨していきなり笑い出した。

「この覚明に果し状をつける程の奴、余程腕に、覚えのある者かと思った。汝は三、四年前に、拙者の道場で打ちのめされた腰抜け侍だな」

「おお、その腰抜け侍の新九郎が、改めての返報だ。果し状は伊達にはつけぬぞ……」

「優らしいその言い草、望みに任せて孔雀明王の血祭りとしてくりょうッ」

「洒落たことを! さッ、そっちに馬鹿な面をしている柿色の虫けらどもも、束になってかかッて来い」