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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

その後お延が、投げ槍小六と一緒に、流転の境涯をつづけながら、心だけは、幾年たッても、新九郎を忘れずに今日まで一念で来たことは、紀州屋敷で会ってから、この扇屋へ落ちついた晩に、お延の口から艶かしく話された述懐だった。

中年の恋が叶って、盲目的となったお延が、じぶんの実意を見せるために、笊組の一門や、大月玄蕃、投げ槍の小六などを、欺し討ちにする手曳きをしよう、と云い出したのはその翌日のこと。

向うで、奸策を巡らしている裏をかいて、こっちから不意討ちを仕掛けるのは妙だと、新九郎も乗り気になり、お延はその為に、時々浅草へ帰って様子を窺った。そして、今日の昼もちょっと扇屋へ姿を見せて、

「新九郎さん、うまい機が見つかったよ。臂の久八が、今夜この先の丹前風呂へ、みんなを連れて遊びに来るというんで、私にも一緒に来いと云ったから、帰る時刻になったらまた知らせに来るよ。だからお前さんは、それまでにしっかり身支度をして待っていておくれ、なアに、対手は大勢でも、私がうんと飲まして置くから大丈夫――」

と新九郎に囁いて帰ったのだ。

お延が、それまでに打ち込んでいる仔細を話されて、こんがらもせいたかも初めて安心した。