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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
唯今までの拙者の勝負は弓矢八幡もご照覧、矢来の外の万民が生証拠じゃ。嚮後末代武芸にかけては、きっと大口を叩かるるなよ」
と思う存分の気焔を上げて、悠然と五足六足引き揚げて来た――その刹那である。
「待て! 大月玄蕃ッ」
後ろの方から轟く大音が、彼の腸に沁み通った。
「何ッ、拙者に待てとか――」
玄蕃はギクリとしたが色には見せず、立ち停まって振り顧ると、松平方の武者溜りから再び、
「おお! しばらく待て」
と凜々たる声が澄んで、三ツ扇の紋幕をかなぐり上げるや、たたたたたとそこへ駈け現われて来た一人は、黒絖龍文の小袖に襷を綾なし、青月代に白鉢巻をキリッと締めて、義経袴の股立高々と取った骨逞しい青年剣客――それこそ春日重蔵なのであった。
「まだ定めの刻限には相成らぬに、人もなげなる今の広言、身不肖ながら殿として春日重蔵これにあるからは、勝ち呼ばわりは早うござるぞ」
「うむ、さては汝が春日重蔵か――」
と玄蕃は如意輪寺裏の恨みを想い起してジロリと凄い一瞥を投げながら、声だけは努めて静かに云った。
「さらば見事に玄蕃の対手に立つと申すのじゃな」
「云うまでもないこと」
「よし、殿とあれば最後の秘術を見せてくれん、用意はよいか」