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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

「べらぼうな、男同士の間には、恩の貸し借りはねえ筈だ。早く胴巻へ金を捻じ込んでおくがいい。あ――来たらしいぞ!」

「え?」

と、二人も慌てて、狐格子の前に立ち、背伸びをして、真っ暗な彼方を眺めると、また降りこぼれて来た雨の中を、五ツの傘が連れ立って来る影と、ぽっちり見えた朱文字の小提灯。

まさしくそれは、風呂屋町を出て来た笊組の臂の久八、荒神十左、投げ槍の小六、大月玄蕃などの輩。ここに刀の目釘を湿して待つ者ありとも知らずに、いずれも、大酔の足どり危うげに近づいてくる様子。

お延と新九郎との約束は、鳥居の前までさしかかって来た時、お延が、わざと小提灯を消し落す――途端に、こっちから斬って出る手筈である。

が、そのお延は、新九郎と諜し合せて帰る途中で、覆面いでたちの御方に攫われてしまったのでこの一行には交じってない筈。――新九郎は夢にもそれを知らなかった。

二

ぱらぱら、ぱらぱら、ぱらぱら……

傘に弾ける雨の音。

「大月先生、見附まで行けば、駕がありましょうから、それまでご辛抱なすっておくんなさい」

声が高いので、あきらかに、それは臂の久八と知れた。答えた声は大月玄蕃である。