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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

その足もとに蹲まって、大地に天蓋を摺りつけて詫びているのは、鼠木綿の見すぼらしい虚無僧で、一人は、片輪と罵られている通り、脚絆の足を不自由そうに曲げ、連れの一人は、顔は見えぬが円肩の優しい物ごし。

さっきから、土足をうけても、唾をかけられても、どこまでも下手に出て、

「ご立腹はさることでござりますが、何せよ、ご覧の通り、取るに足らぬ虚無僧風情、それに、お武家の胸先に突き当ったのも、全く、足の不自由なため、人に押されて蹌けたのでござります」

「どうぞ、この通り、お詫びは幾重にも致しまする程に、おゆるしなされて下さりませ」

若い方の虚無僧も、優しい声音で両手をつく。

「や、此奴」

と、乱暴にも、いきなり前へ進んだ一人の武士が、天蓋のふちをむずと掴んだ。

「こいつ、女でござりますぞ」

「何、女? そりゃ珍しい」

「比丘尼や女順礼は多いが、女の虚無僧は風変りで、酒の酌には一興じゃ」

「やい片輪、貴様の女房か娘か知らぬが、罪の償いにこの女虚無僧をしばらく貸せ」

「さ、来い」

「来なければ偽虚無僧として、寺社奉行の手に引き渡すぞ」

と、何を拒む隙も与えず、若い虚無僧の手を取って、理不尽に引っ立てようとする様子。