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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

「毛頭、おぼえのない女でござる」

「これでも――」

御方はついと立った。そして、荒々しく一方の襖を開けた。

「あッ――」

新九郎は愕然として、薄暗い隣り部屋へ声を放った。おお、そこに猿轡をかけられて、縛められている女の影は、まさしく、あの夜から行方の知れなくなったお延である。

お延は身をもがいている、けれど声を立てることも、新九郎の側へ寄ることもできなかった。御方の怖ろしい復讐の念は、それを快く眺めるのである、いやそれのみか、侍女に酒の用意をいいつけて、お延のもがく目の前で、新九郎と甘い恋の囁きを見せつけようとまでする。

その時だった、不意に表の方で、キャッという侍女の悲鳴が上がった。途端に、老女の水瀬が色を変えて駈け込んできた。

「御方さま、狼藉者の乱入でござります、狼藉者が、あれ、あれッ……」

と告げながらけたたましい声を上げてしまったのは、もうそこまで、覆面抜刀の荒くれ武士が、襖障子を蹴破って入りこんできたためであった。

「この寮にいる御曹子の新九郎と、女主の女郎を出せ、山手組が出向いて来たのだ。匿い立てする分には片っ端から鏖殺しだぞ」

大刀きらめかして、そのうち四、五人は、早くもこの部屋へなだれ込んで来たが、