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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

「オーッ」

と息を返した重蔵は、ガッキリこたえて弓形に腰が反るまで丹田に渾力を集めた。エエイッ、エエイッ――続いて圧倒的な気合いが押した。時分はよしと、ぱッと受太刀を右脇へ捨てて一足跳び退いた重蔵の変化に、不意を喰った玄蕃は、よろよろと空を斬って燕返りに立ち直ったがはやくも重蔵の小太刀がその真ッ向うへ行って、横翳しに受けた玄蕃の赤樫の木剣は、ボキッと折れて切尖七、八寸クルクルッと宙へ刎ね飛んだ――刹那。

「待て! 試合は引かれい、上意じゃ」

と目付奉行の大声がかかった。

重蔵はハッと万斛の水を浴びて小手を緩めたが、小太刀の勢いはそのまま玄蕃の肩先に届いた。しかし、玄蕃はほッと甦った顔で、

「参った」

とは云わず、かえっていかにも不平な表情で、

「何故あってのご制止でござる」

と呶鳴った。

「上のお声がかりでござる。この勝負は引分け申す」

と目付役が答える側から、続いて京極方からばらばらと駈けつけた近侍の者が、

「大月玄蕃殿、君公のお召し急いで――」

と伝えて来た。玄蕃はそれをいい機に、しかし色には見せず、いかにも残念らしく引き揚げて行った。

――と、一方福知山藩の家中から、騒然たる物議の声が高く起った。