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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

「重々のお情け、心魂に徹して忝のう存じまする」

「誰ぞおらぬか、用意の品を両名にとらせい」

「はっ」

次の間から、ツツと近侍の者が捧げて来た男女二組の白服、白襷、見事な差刀が添えてそれへ置かれた。

「曠の祝いじゃ、支度をするがよい――」と忠房は重蔵と千浪を促してから、

「こりゃ、若侍ども八、九名参って、大月玄蕃を引き摺り出せ。場所はかねて申しつけおいた奥庭の芝原――」

いいつけていると、摺り足の音忙しく一人の家臣が取次口へ跼ずいた。

「ご前、ご来客でござります」

「なに、下屋敷へ不意の来客とは不審、誰が見えられたのじゃ」

「御老中秋元但馬守様、ならびに、京極家の溝口伊予殿お揃いでござります」

「フーム……」

忠房は俄かに重苦しい顔色を見せて考え込んだ。

五

京極家の江戸家老溝口伊予は、約束の日に大月玄蕃が姿を見せなかったので、不審に思っていると、京極家とは呉越の宿怨ある松平忠房が、路上から玄蕃を拉して行ったという事実をふと聞き込んだ。

そこで昨日から、両家の間に激越な懸合いの使者が往復していた。京極家からは、

「たとえ後日に仇討をさせるまでも、当家で抱え約束を致した大月玄蕃、一たんは是非ともお渡しを願いたい」