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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
口上はいかにも穏当な調停に似ているが、実は非常な強迫を含んでいる。
なぜかと言えば、京極家贔屓の喬朝が、決して公平である筈がない。殊に、これくらいなことで、一にも将軍家、二にも将軍家とお上の名を振りかざしてくるのは、老中の職権にあるぞと言わんばかりな威嚇でなくて何物でもない。
と言って、売られる喧嘩を買うことには、言い分も立つが、老中の調停を退けて、京極家と血の雨を見ることは、自ら非を求めるようにもなる。
忠房は、家臣が応接している使者の口上を、襖越しに聞いていた。そして、とにかく、こう答えさせて使者を返すことにきめた。
「今日は他に取り込みごともござりますゆえ、いずれ明朝には、必らず当人に腹切らせて首をお渡し申すでござろう」
それを聞くと、使者は、余りたやすく要求をきかれたのに、かえって不安を覚えたらしく、
「では、明朝は相違なく、拙者と京極家の者が立会いに参りますが、ご異存はないのでござるな」
「承知いたしました。きっとお待ちうけ申しまする」
「神妙なご挨拶、定めし、御老中にも満足なさることでござろう」
とは言ったが、使いの者は、案外腰の脆い松平家の態度に呆れもし、またいささか疑念をも抱いて帰った。