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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
裏小屋に泊った千浪と御方は、思わず枕から顔を上げた。
「何でございましょう、あの音は?」
「オオ、激しい気合の声もする……」
ポン、ポン、凄まじい木太刀の音、丑満の静寂を破って何とも厳粛な気にうたれる。
二人は不思議に思って蚊帳を抜け出した。鷹の巣山の真上に皎々たる月がある。木剣の音は拝殿の前、二人はその床下の蔭に添ってそッと広前をさしのぞいた。
見ると、白昼の如き神前に、神禰宜の左典と白衣の人が上段下段に木太刀をつけて、火を摺るような荒稽古。
「まだ気力が足らん! 神心の凝念が足らん! 剣と心の一致が足らん! 無念無想になれ、わしを鐘巻自斎と思うて打ち込んで来い」
左典は鋭い声で叱咤し、かつ励ます。
「えいッ――」
と新九郎は必死! おのれ鐘巻自斎! その意気込みで真っ向に打ち込む。
痩躯鶴の如き左典の身は、ヒラリと剣尖をかわして、その途端に藜の杖がブーンと新九郎の横面に飛んだ。
「やッ――」
と、受けたがその隙もなく、
「それ、無風剣……」
音もなく来る二の太刀。パキンと、引っぱずすとすぐ三の太刀。
「左風剣!」
「えいッ」
「右風剣!」
息もつかせず一刀ごとに追い詰めて、あわやと見る間に、藜の杖を横一文字に、サッと払った左典。