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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
太守丹後守家中一同、揃って下へもおかぬ歓待。
「何とぞ大先生のお力をもって、当日、京極家の武名をご維持下さいますよう、その代りとしてこの度野試合にお勝ち下さいました節には、終生先生のご書料として五百石の蔭扶持をお送り申す心底でござります」
などと、老臣からの含みもあった。
「無論勝たねばならぬ!」
と自斎は思った。が、名利ではない、桔梗河原の時と違って、今度は天下の諸侯諸士が環視の晴れ場所。
柳生、小野、また江戸の名だたる剣客もよそながら注目しているであろう場所。やぶれを取っては富田三家の恥辱、また仮借があっては新九郎の不為、いずれにしても正しき剣の優劣を明らかにせねばならぬ。
程なくその日が来た。駒場野の御用屋敷からお鷹地の広野には、白い葵を染め抜いた紫の幔幕が張り渡されてある。大番組の警士を初め渋谷三郷の代官、柵の内外に厳しい固めをつけておく。
既に将軍家は、未の下刻に着御、随行の大名お鳥見組の諸士、近侍旗本のひしひしと詰め合った南面のお幕屋に着席している。半刻のご休息があって、一番太鼓がドーンと入る。二番太鼓……貝の音が吹き渡る。
素破! 両剣士への合図か――と思うとそうではなかった。