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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

タタタタタと不意の足音――

いきなり駕先の一人が大袈裟に斬り下げられた。

「待てッ、その駕待てッ!」

ザクリッと提灯を斬って落した大刀の影に、パッと火の粉が闇へ上がる。あッ――わッ、という声と一緒に、駕の中へズバリと入った真槍の穂尖。

「むッ」

ケラ首を掴むが早いか、素早く外へ躍り立った新九郎。

「人違いいたすな、拙者は春日新九郎であるぞ、はやまって後悔するな」

言いも敢えず、群がり立った黒覆面の中から、

「だまれだまれ! その御曹子新九郎は三年前に、京極家に対しての申し訳に切腹いたした筈ではないか。しかるに偽せ首を渡して、のめのめと再び大手を振って通るとは不埒な奴、今こそ成敗いたすから覚悟をしろ」

「ウウム、さてはまたも今日の遺恨を含んで失せた京極家の奴ばらであったか。いまだ懲りずに待ち伏せて、新九郎を討って取らんとは笑止千万!」

「何をッ、宮津文珠の荒侍、汝ら一人を討ち取れずに何とする」

「おお、その儀なれば、絶えて久しく鞘の眠りにある来国俊、錆拭きがわりに斬ッて斬ッて斬り巻くってくるるぞよ」

「ええ、舌長な広言、それッ、彼奴の細首を打ち落せ!」

と罵って、後ろへ身を隠したのは紛れもない京極家の溝口伊予。